かい割れダイコン
(アブラナ科ダイコン属)
かい割れダイコンはダイコンですが、大きいわけでも、根の部分でもありません。胚軸と子葉を食用とするスプラウトです。スプラウトは発芽して新芽になったばかりの野菜(発芽野菜)で、成長した状態(完成野菜)と比べると、格段に多くのミネラルやビタミン類を含んでいます。発芽する段階で、種子のときには存在しなかった栄養成分を自身で合成するからです。
かい割れダイコンは、「貝割れ大根」とも書きます。双葉が開いた二枚貝のように見えることからその名が付きました。平安時代にはすでに吸い物やあえ物に添えて食べられていたようです。
かい割れダイコンは1970年代までは料亭でしか食べられない高級食材でした。銀座に近い築地市場には専門の仲卸があり、木箱にきれいに並べて扱われていました。
かい割れダイコンの栽培は短期間ですが、技術がなければ胚軸を長くし、鮮度の良い物を作ることはできません。「早生四十日」という極早生品種を砂土にまき、発芽したら子葉の付け根まで土寄せし、本葉が出る前に収穫します。施肥とかん水にも特別の工夫がいります。
1980年代中ごろになると、水耕栽培で大量生産されたかい割れダイコンが流通するようになりました。清潔なプラスチック容器入りで低価格なので、あっという間に一般家庭に普及しました。
一年中店頭に並び、和洋中の料理に利用されます。根元を切ってかつお節としょうゆをかけるだけで酒のさかなになり、ピリッとした辛味でお酒が進みます。かい割れダイコンのハム巻きは子どもが大好きです。
9月18日はかい割れダイコンの日です。日本かいわれ協会(現・日本スプラウト協会)が1986年に、健康野菜のかい割れダイコンを普及させるために制定しました。9月は第1回総会が開かれた月、18日は8を横にすると∞(無限大)、その下に1を付けるとかい割れダイコンの形になるからです。
藤巻久志(ふじまきひさし)
種苗管理士、土壌医。種苗会社に勤務したキャリアを生かし、土作りに関して幅広くアドバイスを行う。