コウサイタイ
(アブラナ科アブラナ属)
中国野菜というと、若い人は中国から輸入した野菜だと思うかもしれません。
年配の人の多くは、1972年の日中国交正常化に伴いやって来たカンカンとランランのパンダフィーバーと、チンゲンサイやタアサイなどの中国野菜ブームを思い出すことでしょう。
中国野菜ブームは、日中国交正常化の前年に開催された広州交易会に参加した坂田種苗(現・サカタのタネ)などが種を持ち帰ったことから始まります。日本の風土に適応するように品種改良され、千葉県柏市や静岡県磐田市などに中国野菜の産地ができました。消費が急に伸び、毎日のように新聞やテレビなどで中国野菜に関する報道がされ、デパートやスーパーの野菜売り場に中国野菜の特設コーナーが設けられました。
コウサイタイも中国野菜の一つで、漢字では「紅菜苔」と書きます。「苔」はコケの意味ではなく、「薹」の当て字でとう(花茎)のことです。つぼみの付いた花茎を食用にします。9月に種まきすると年内から花茎が伸び、3月末ごろまで次々と長期間収穫できます。黄色の花は観賞用にもなります。
原産地は揚子江中流地域で、唐の時代にはすでに栽培されていました。日本には遣唐使が種を持ち帰ったかもしれません。しかし他家受粉のため周りのアブラナ属と交雑して、特性は維持できなかったでしょう。日中戦争中にも兵隊が種を持ち帰りましたが、当時もまだ交雑を防ぐ採種技術がなかったためか、定着はしませんでした。
コウサイタイは茎や葉柄が赤紫色で、寒さに遭うと濃くなります。加熱すると葉と同じ緑色に変化します。柔らかく、独特の甘味とぬめりがあり、炒め物やおひたしなどに適します。アスパラ菜という名でも流通している「オータムポエム」は、コウサイタイとサイシン(菜心)を掛け合わせた品種で、葉も茎も緑色です。
藤巻久志(ふじまきひさし)
種苗管理士、土壌医。種苗会社に勤務したキャリアを生かし、土作りに関して幅広くアドバイスを行う。