ゴボウ(キク科ゴボウ属)
ゴボウの原産地はユーラシア大陸北部で、日本には中国から薬草として渡来しました。日本で野菜になった初めての海外原産植物です。平安時代にはすでに宮廷料理の食材として利用されました。
ゴボウを日常的に食べているのは日本だけです。第2次世界大戦中に捕虜収容所で係員が連合軍人にゴボウを食べさせたところ、戦後の戦犯裁判で「木の根を食べさせた」との理由で捕虜虐待罪となり死刑執行されました。食文化の違いによる悲しい出来事です。
耕土が深い関東では長根種、浅い関西では短根種や葉ゴボウが普及しました。現在の主流品種は長根の滝野川系で、江戸時代に改良され全国に広がりました。滝野川は東京都北区の地名で、中仙道のその辺りは種屋が多く並び、種屋街道と呼ばれました。種屋は人と情報が集まる所で発展します。都があった奈良や京都には老舗の種苗会社があります。
長根種の主産地は関東ローム層の埼玉や茨城などでしたが、深い溝を掘るトレンチャーやトラクターに装着できるハーベスターが開発され、北海道や青森などにも大きな産地ができました。
ゴボウは夏にアザミに似た紫色の花を咲かせます。実にとげがあり、動物の毛や人の服にくっついて種を遠くまで広めます。人が実に触れると皮膚がかゆくなることがあります。西欧では根より花の方が知られていて、花言葉は「私に触らないで」や「しつこくせがむ」です。
食物繊維が水溶性も不溶性も豊富で、含有量は野菜ではトップクラスです。便秘やコレステロール値などを改善し、発がん物質を排出します。皮にうま味と香りがあるので、汚れは包丁の背でこそげるだけにします。切った端から水にさらしますが、酢を数滴落としておくとあくによる変色が防げます。
藤巻久志(ふじまきひさし)
種苗管理士、土壌医。種苗会社に勤務したキャリアを生かし、土作りに関して幅広くアドバイスを行う。